研究理念 

現在懸念されている地球環境問題や気候変動は,水災害と直結しており,工学や理学,環境や防災の分野の垣根を越えた学際的な研究を進める必要に迫られています.3万キロを越える世界でも有数の長い海岸線を持つ我が国において,人口の大部分は沿岸部に位置しており,沿岸部の国土を保全し,国民の安全な生活を保障するためには,沿岸部における高波,高潮,津波からの防災・減災が重要な課題となっています.

当分野では,沿岸災害に関する研究を進め,海岸工学の観点から21世紀半ばの国土保全の将来像について科学的観点から提言を行っていきたいと考えています.また,地球環境および温暖化問題は世界共通の問題であり,得られた研究成果が世界各国で利用されるように研究を進めています.

主な研究プロジェクト:地球温暖化プロジェクト

今後予想される地球温暖化のシナリオの下では,地球規模の気候の変化や大気および海面の温度分布の大規模な変動が予想されています.この中で,沿岸部では,海面上昇に加えて,波浪,高潮が現在と異なる振る舞いをすることが予想され,これらが今後どのような変化をするのかの予測が必要とされています.当分野では,これまでの研究基礎研究の成果を生かし,温暖化シナリオ下において沿岸災害が長期的にどのように変化していくのかについて予測を行う研究を行っています.

温暖化シナリオ下における台風・高潮の変化予測 

地球温暖化が中緯度地域に局地的に与える影響として,台風・熱帯低気圧等の数の変化とその巨大化など極端気象の変化が予想されています.風が海面に与える運動量は風速の2乗に比例するため,台風の極端化により,日本沿岸部では従来の知見を超える高波や高潮等の災害を引き起こす可能性があります.当分野では,温暖化シナリオ下における未来の台風の特性変化予測,およびこれに基づいた高波・高潮の将来変化予測を行い,沿岸防災についての将来予測を行っています.

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全球における台風経路の解析結果

温暖化シナリオ下における沿岸環境の変化予測 

IPCC第4次評価報告書では,温暖化に伴い海面が上昇すると予測されています.海面上昇は静的な沿岸環境の長期変化ですが,沿岸域の防波堤や砂浜の保全には,動的な変化である波浪について予測することが重要です.当分野では,温暖化シナリオ下における海面上昇と波浪特性の将来変化についての予測を行っています.さらに,これらの予測結果に基づき,将来の防波堤の設計条件の変化や砂浜の変形予測について研究を進めています.

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現在から今世紀末頃の海面上昇量の予測結果:CMIP3に基づく結果 SRES-A1Bシナリオ(単位m)
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現在から今世紀末頃の平均波高の変化予測結果:革新プログラムに基づく結果 SRES-A1Bシナリオ(単位:割合,100倍すると%)

主な研究プロジェクト:津波研究 

2011年3月11日午後2時46分,三陸沖で起こったマグニチュード9.0の地震に伴う津波は,日本をはじめとして,太平洋の広い範囲に来襲しました. 沿岸災害研究分野では,これまでの津波研究にとらわれない形で新しい視点からこの災害の評価を行うと共に南海・東南海地震に伴う津波に役立つ研究を進めつつあります.

東北地方太平洋沖地震津波 

全国の津波調査のための事務局を関西大学と防災研究所の研究者で分担して運営し,調査チームの編成を行うと共に,調査データの収集と解析を行いました. 最終的に測量された津波痕跡データは合計5300地点を超え,世界的に見てもかつて無い大規模かつ密度の高い痕跡高データセットとなりました. 現在,詳細な解析を進めている最中です.

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東北地方太平洋沖地震津波津波痕跡調査結果

数値モデルの開発 

これまで津波の計算は長波近似に基づく浅水方程式を持いて行われてきました. 東北地方太平洋沖地震津波の調査結果や映像を踏まえると沿岸部ではこれまでの数値計算が妥当とは思えない状況が多々あり,防災研究所都市耐水研究室と連携して新しい数値計算方法の提案とその妥当性の評価を行なっています.

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釜石湾・両石湾の計算結果

リアルタイム津波予測手法の開発 

巨大津波を引き起こす危険がある東南海・南海地震は,概ね100~150年間隔で発生しており,今世紀前半での発生が懸念されています.このような稀な巨大災害に対しては,ハード対策で100%の防災を目指すことは極めて困難であり,ソフト対策による減災対策を併せて考える必要があります.現状では,地震情報からあらかじめ計算された結果をもとに津波予報を行っていますが,必ずしもあらかじめ計算された地震が起こるわけでないため,津波予報値の精度は十分ではありません.そこで当分野では,実際に沖で観測される津波情報をもとに,沿岸に来襲する津波をリアルタイムに予測する手法についての研究を行っています.

 

主な研究プロジェクト:応用研究

気象・沿岸災害のリアルタイム予測技術開発 

気象・水象災害の防災・減災には,長期的なトレンドの予測以外に,数時間後から数日先の状況の情報から,災害の回避や避難を行うための短期的な対策も重要です.当分野では,他分野と連携して,気象・水象災害のリアルタイム予測方法の開発を行っています.メソスケールの気象モデル,波浪モデルを援用し,これまで難しかった強風・暴波浪のリアルタイム予測技術開発を行っています.さらに,4次元的な予測結果を利用者に素早く理解してもらえるような,web情報の配信システムなどのソフト的な開発も行っています. さらに,波浪予測情報をサーファーのために特化し,サーファーのための波浪予測情報配信システムの開発を始めています. この研究は,気象予報会社と連携して行っています.

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大阪上空の風速および水蒸気量

洋上風力発電立地のための気象・海象情報予測・推算システムの構築 

太陽光,風力,波力,潮汐力なのどの再生エネルギーの活用が謳われる中で,波力発電は,比較的大規模なエネルギーを得ることができる有力なエネルギーソースの1つです.陸上に比べて海上では,風速が大きく,また安定したエネルギーが得やすいため,ドイツやデンマーク等の水深の浅い沿岸部の北ヨーロッパでは,大規模な洋上風力発電ファームが導入されています.日本でもこれから積極的に洋上風力が導入されていくことは間違いありません. しかし,海底地形の急峻な日本沿岸では,ヨーロッパのような着底型の風力発電の導入は限られており,日本独自の方法として浮体システムが有望視されています.当分野では,大水深おける洋上風力発電導入のために重要な,設計風速,設計波力,設計海流流速の推定を行う手法の開発と日本におけるサイト選定支援マップの作成を行っています. この研究は,環境省により推進されており,2012年には実際に第1号機が浮かぶ予定です.

 

海岸・港湾構造物の変状特性と新しい耐波設計法の確立 

近年,設計の合理化を図るため,海岸・港湾構造物にも性能設計の概念が導入されつつあります.海岸・港湾構造物の変状特性を調査するとともに,信頼性設計や最適設計といった新しい概念に基づいて構造物を設計する手法を研究しています.当分野では,設計過程で現れる不確定要素による値のばらつきに配慮し,ライフサイクルコストを考慮した最適設計法,構造物の性能を規定することによる性能設計法の確立を目指した研究を行っています.

 

主な研究プロジェクト:基礎研究

高潮予測モデルの開発 

高波は,強風時に海面が風から受けるエネルギーによって発生する波動現象であり,高潮は,台風のような巨大な移動性低気圧による吸い上げと,強風に伴う吹き寄せで生じる流れによって発生する異常な海面上昇です.高潮は強風によって発生した高波が必ず伴い,高潮は異常な水位上昇を,高波は防潮堤に非常に強い力を作用させ,沿岸部に破壊的な力をもたらします.このような高潮・高波の複合災害を防御するためには,事前に起こるべき規模を的確に予測し,避難情報や減災方法を考慮することが必要です. このため,当分野では,高潮や波浪の数値予測方法の開発とこれを検証するための現地観測を実施してます.

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3次元高潮・波浪結合モデルの計算結果(大阪湾)
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田辺湾・白浜における台風来襲時の計算結果:表面流速(和歌山県田辺湾)

巨大波浪予測モデルの開発 

沿岸災害や海難事故は,予想を超えた大きな波浪による事が多くあります.一般的な波浪の予測は平均エネルギーを予測するものですが,1,2波の巨大な波による被災例が多く見られます.特に大きな波はFreak wave/Rouge waveと呼ばれ,風から海面へのエネルギー輸送,波同士の非線形相互作用,砕波によるエネルギー散逸など複雑な物理機構に支配される物理現象です.当分野では,波浪予測の高精度化と巨大波浪予測のためのモデルの開発を行っています.

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日本海で観測された巨大波の例(波高12m)
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日本近海における予測結果例

レーダリモートセンシングによる波浪観測方法の開発 

高波の発生,伝播は時空間的に非定常であるために観測が非常に難しく,物理的メカニズムの解明が遅れている. このため,時々刻々変化する空間的な波形を捉える新たな手法の開発が望まれています. 当分野では,Xバンドレーダを用いた水面変動の広域観測手法の開発とその検証を行っています.

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レーダによる水面変動の計測・解析結果(水平1kmX1kmの範囲)

大気海洋境界面における混合換過程の解明 

大気海洋海面境界では,風から風波や流れに伝えられる運動量,熱,水蒸気や二酸化炭素に代表される物質のやり取りが行われます.このプロセスは高波や高潮など工学的に重要であるにも関わらず複雑であり,そのメカニズムの解明は十分ではありません.そこで当分野では,海面における運動量,鉛直混合,物質輸送の観測とそのモデル化についての研究を行っています.この成果は,上記のプロジェクトの中で,高波や高潮のモデリングにフィードバックしています.

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砕波の可視化実験結果

研究資金・スポンサー 

現在,研究室の活動は以下のプログラムによってサポートされています.共同研究先もほぼこれに従っています.

省庁 

科学研究費補助金 

  • 研究室主体
  • 分担
    • 2013-2015年度 基盤研究(B)
      • 街区スケールの建物群に対する遡上津波挙動の解明と新しい津波耐力評価手法の確立 (25282133),代表:大阪産業大学水谷先生,分担:森
    • 2012-2016年度 基盤研究(B)
      • ストーム時に発生するマイクロメカニクスによる大気海洋間輸送フラックス (24360196),代表:北海道大学渡部先生,分担:森
    • 2012-2014年度 基盤研究(C)
      • 防波堤を越えた津波が引き起こす複合災害の危険度評価に関する研究 (24510247),代表:防災研究所米山先生,分担:森,安田
    • 2011-2013年度 基盤研究(B)
      • 高信頼性確保のための浮体式洋上風力発電施設の設計手法高度化に関する研究 (23360196),代表:京都大学工学研究科宇都宮先生,分担:間瀬,連携:森,安田
  • 連携研究 (多数)

その他 

  • 2012年度 ARCP
    • ARCP2011-01FP-DeCosta?: A Study on Loss of Land Surface and Changes to Water Resources Resulting from Sea Level Rise and Climate Change, Asia-Pacific Network for Global Change Research (APN), PI:DeCosta?,分担:森,安田
  • 2013年度 関西エネルギー財団,代表:間瀬

共同研究先

大学 

  • Bristol University (UK)
  • Newcastle University (UK)
  • Oregon State University(USA)
  • Seoul National University (Korea)
  • Swansea University (UK)
  • Texas A&M University (USA)
  • University of Edinburgh (UK)
  • プラウドマン海洋研究所 (UK)
  • ヨーロッパ中期気象予報センター ECMWF (UK)
  • 北海道大学
  • 名古屋工業大学
  • 神戸大学
  • 鳥取大学
  • 九州大学
  • 熊本大学
  • 大阪産業大学

研究機関 

  • 港湾空港技術研究所
  • 国土技術政策総合研究所 他

民間との共同研究 


研究プロジェクト

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